[兵庫県・高砂市]
目の前の人がどんな人であれ、
一人の人間として真摯に向き合う。
まちの保健室店主の〝人〟との関わり方。
まちの保健室ケアカフェ to be
店主 金川 圭美
まるっと人を受け止める、まちのセラピスト。
人を人として大切にし、分け隔てなく人と接する━━。
人と関わる際に大事なこととしてよく耳にする言葉ですが、まさに〝言うは易し行うは難し〟、口で言うほど簡単ではないと、誰しも感じたことがあるのではないでしょうか。対人関係に優れているとされている人ほど、「この人はたぶんこんなタイプの人だろう」との仮説のもと先入観を持って関わっているケースが多いように思います。
「人間って見えている部分はごくわずか。本当のところは隠していたりするからね」と笑って話すのは「まちの保健室ケアカフェ to be」の店主、金川圭美さん。医療機関や福祉施設はもちろん、地域の様々な場所でケアを行い多種多様な人と関わってきた経験を持つ金川さんは、色眼鏡で人を見ず、心根の奥深くまで潜って相手の強い部分や弱い部分をまるっと含めて人と接するセラピストとして知られています。「まちの保健室ケアカフェ to be」はそんな店主の人柄もあって、ほっと一息つける古き良き〝縁側〟のような居場所として地域の人たちに愛され、職種や肩書き問わず様々な人が集い交流が生まれています。
「人と接するときは絶対にジャッジしない。どんな人でもフラットに関わるようにしている」と語る金川さん。目の前の人を一人の人間として大切にし、真摯に接し付き合ってきたこれまでに迫りました。
人と人が関わり合い、
助け合う「まちの保健室」。
兵庫県高砂市。高砂神社や稲荷神社をはじめとする様々な神社仏閣が随所に点在し、「散歩のついでに」と地域住民の方々が手を合わせる風景が今なお見られる穏やかな町、高砂町。迷路のように走る細い路地を進むと、「まちの保健室ケアカフェ to be」の柔らかい書体の看板が見つかります。中からこぼれてくる優しい笑い声とあたたかな雰囲気に触れると、内と外の境界が曖昧になり、軽やかに入口を跨ぐことができました。
「こんにちはー!」と明るい声で迎えてくれたのは、地域で〝金ママ〟の愛称で広く親しまれているセラピストで店主の金川 圭美さん。縁側風のリビングスペースに通され、あたたかいコーヒーをいただいてほっと一息ついてインタビューをスタート。途中お客さんがふらっと訪れることもあり、生で金川さんの〝人との関わり〟を見ることができました。「金ママのインタビューをされているんですか?一日あっても終わらないですよ(笑)」と口を大きく開けて笑われるお客さんと〝金ママ〟の姿から、二人の関係が親しいことがわかります。現役看護師のお客さんが言うには「並のソーシャルワーカーよりすごいと思う」とのこと。
「金ママは病院や行政がカバーしきれない様々な垣根をとっぱらって、横断してケアを行えるんです。地域の困りごとを抱えた人に、これまで関わってきた医療従事者やフリーのセラピストなど適切な人を紹介し、解決に導いています」。
プロの口から語られる〝金ママ〟こと金川さんに、一体どういう人なんだろう?とワクワクしながらお話をうかがいました。
「私だったらどう思うか」を考え、
実践し続ける。
大学卒業後すぐに結婚し、バブル期に幼子二人を抱えながら営業事務として地域のガス会社に就職した金川さん。その後バイヤーとしても活躍し、三十代はバリバリのキャリアウーマンとして働いていたそうです。
「バブル時代だったので、新居が建つとカーテンや壁紙などが高値で取引されていたの。本業とは別で業者を探して売り手と買い手をつなぎ、売買の仲介もしていた。色んなお仕事をしてきたけど、『私がお客さんだったらこっちの方が良いのにな』と思うことを実際にやってたね。それはどの仕事でも一緒。相手にとって何が良いのかを考えながら仕事をしてた」。
当時からお客さんの困りごとを解決するために尽力されていた金川さん。資格の有無にかかわらず、「要は何ができるのかが大事」との言葉通り、困りごとを抱えた相手と真摯に向き合い自分に何ができるのかを考えて周りの人の力になってきました。
セラピストとして本格的に活動を始めたのは四十代から。
「近所に介護施設で働いている人がいて、ボランディアで良いからやらせてくれないかって頼んだのよ。そうしたら看護部長とつないでくれて。その後病院で3ヶ月ほど研修を受けて、一から看護師さんたちとアロマボランティアの仕組みを立ち上げて3年くらい続けていた。お医者さんや看護師さんたちに研修をしたり、ホスピス大会に出たり……。少しずつ仕事になっていって、最後はホスピス病棟に一室アロマルームをつくってもらえるまでになったの。そこからホスピスはもちろん、デイサービスや産婦人科などでちゃんとお仕事としてさせてもらえるようになったね」。
その後「まちの保健室ケアカフェ to be」を立ち上げ、店主として運営をスタートし、今に至ります。
自分の身体に気づく。
どうなれば嬉しいかを見つける。
金川さんのケアは相手の言葉だけではなく、身体から発せられているメッセージにも耳を傾けながら行われます。その目的は治すことではなく、自分の身体の状態に気づくこと。
「これまで自分の病気がどんな病気なのか、身体の中で一体何が起こっているのかを知らずに、不安を抱えながら薬を飲んでいる患者さんと関わる機会が多かったの。そこで気づいた。その人自身がちゃんと自分の身体のことを知って、必要な情報からどうするかを選ぶことができるようにサポートすることが大事なんやなあって。だから私は『こうした方が良いよ』とアドバイスするんじゃなくて、その人自身が選べるようにサポートをしてる。言ってみればナビゲーター役やね」。
病院では医者の話を聞かず、治療が難航している患者さんを多く見てきた金川さん。その経験から、「自分で気づいて自分で選んだら、自分で責任を持ってやるようになる」と話します。また同様に、病院で塞ぎ込みコミュニケーションが取りづらくなっていく患者さんに対しては、「一人の感情のある人間として真摯に向き合うこと」を大事にされているとのこと。
「病気が原因で意思疎通が難しくなった患者さんの前で、心無い言葉を平気で口にする配慮の無い医療関係者もいたんです。患者さんはその話を聞いているし、辛いと感じているかもしれないじゃない。結果治療に消極的になるし、何より元気が無くなっていく。目の前の人がどんな状態であれ偏見を持たずに、感情のある一人の人間としてどう接するのか、どうしたらより良く過ごせるのかを考えて接することが大事だと思ってケアをしてるのよ」。
「今日どうなったら嬉しい?」との質問から始まり、全身で相手と対話する中で行われる金川さんのケアは、「まちの保健室」の名前通り地域の方々の身体と心を癒しています。
地域に一つ、
ほっと落ち着く居場所「まちの保健室」。
最後にお店の今後、金川さんの今後についてお話を聞いてみました。
「今『旅するまちの保健室』という企画をしてるの。高砂市に限らず近隣の市町村まで足を運び、ゲリラ的に保健室を開いていて、今後はこれをどんどん広げていきたい。どの町にもひとつ『まちの保健室』があって、まちのよろず相談所のような役割を果たしていけたら良いなあと思ってる」。
まちの保健室の役目は「まちの笑顔を守ること」だと語る金川さん。今後は自分がその場にいなくとも、集まったまちの人たちで交流し、助け合っていく流れができれば嬉しいと笑顔で話します。地域の人々にとって、ほっと落ち着け、まるっと受け止めてくれる縁側のような居場所「まちの保健室」。もしかしたら、近いうちにあなたの町にも生まれているかもしれません。
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