[兵庫県・高砂市]
生活から遠いものをより身近に。
豊富なアイデアと実行力で社会に新たな商品を生み出す。
株式会社Sydecas
代表取締役 寄玉 昌宏
入口は広く、ワクワクするメッセージを。
自分とは関係が無い。その一言で、身の回りの数ある社会問題を遠ざけ、見て見ぬ振りをすることがありました。たしかに、全ての社会問題を自分ごととして捉えようとすると、とてもじゃないですが身が持ちません。ただ見て見ぬ振りをするのも何だか気が引けてしまう︙︙。社会問題の解決に積極的に取り組まれている人は、一体どういった考えで臨まれているのでしょうか。
「社会課題について語ったところで興味関心のある人にしか届かないし、自然と解決していくように商品を通して関係をつくって働きかけができればそれが一番良いんじゃない?」と教えてくれたのは、兵庫県高砂市にある、株式会社シデカス代表取締役の寄玉 昌宏さん。数多の社会課題を身近に引き寄せ、意図せずとも自然と解決に導いてくれるような商品を数多く生み出してきました。同社はただ世の中にとって良いものをつくるのではなく、そこに自然と手に取って使いたくなるようなポジティブなメッセージを含めて社会に発信しているのです。
今回は寄玉さんに、株式会社シデカスを立ち上げた経緯や手掛けているプロジェクト、そして商品を通したメッセージの伝え方についてお話しをうかがってきました。
自分の手持ちで何ができるのかを考える。
兵庫県高砂市、JR宝殿駅から北西に徒歩5分。兵庫県靴下工業組合の建物二階に株式会社シデカスのオフィスがあります。「片付いてないから写真が撮りにくいかもしれませんが(笑)」と笑って出迎えてくれたのは、鋭い眼光と端正な目鼻立ちをした代表の寄玉 昌宏さん。シデカスの社名に込められた「どんなに優れたアイデアであっても、実行されなければ意味がない」の思いが体現されたかのようなオフィスには、試行錯誤の産物である様々な試作品や企画書の束が随所に積み上げられています。
「一見事業に関係無いと思われることでも、積極的に引き出しに入れていく」と語る寄玉さん。商品開発の際は、長い時間をかけて事業の歴史や近接分野などの関連書籍を読み漁ります。これまでシデカスから生まれた商品は、そうした綿密なリサーチと寄玉さんの持ち前の実行力で形になったものばかりです。
「どんな思いがあれ、結局できることしかやれないじゃないですか。料理をイメージしてみてください。『これが食べたい!』ってものがあっても、冷蔵庫に何が入っているか知らないと作れないでしょ。あるものから何を作ろうかと考えるじゃないですか。会社も一緒で、社内にあるものから何ができるかを考えることの方が多いです」。
ゴールが見えないところで挑戦してみたい。
寄玉さんが起業を意識し出したのは大手メーカーに務めて5年半くらい経った27歳ごろ。その理由を「自分の将来が見えてしまい、サラリーマンの限界を感じたから」と話します。
「『会社が嫌になったから』とかではなかったですね。社内はみんな良い人たちだったし同期とも仲が良かった。離職率も低く、当時平均勤続年数が23年という超優良企業でした。ただ、そこでサラリーマンの限界が見えてしまった。大手メーカーといっても地方企業ですから、仮に僕にとても力があって社長になれたとしても、そこでは年収3,000万円程度です。そういうゴールが見えてしまうのが嫌だった」。
起業と聞くと何かしらの社会課題解決に対して強い意識があって行動を起こしたかのように思いますが、決してそういうわけではないと意外な返答が。「崇高な理念があって起業したとのストーリーがあれば、みんなわかりやすいってただそれだけの話。自分にできることがあり、色んな状況が重なって起業された方も多いですよ」と笑って教えてくれました。
あっけらかんとした語り口で歯に衣着せず答えてくれる寄玉さん。「ただ、あえて言うと︙︙」と続けて話してくれたのは、身近な家族への思いでした。
「身近な家族が介護の問題で困っていたんです。男性介護ってあまり取り上げられないし見えにくいですが、大きな社会問題の一つ。難しい部分がたくさんあります。たとえばこれまで家事を一切せず、料理の一つもできない人が親の介護をやれるか。できないでしょ。そこをもっと手軽に親しみを持ってできるようにならないかと考え、介護用の衣料雑貨事業を始めましたね」。
ユーザーに届き、広がるようなメッセージを。
「介護を受ける方を家族の笑顔の中心にする時間を創る」ことを事業ミッションの一つとして取り組んできた株式会社シデカス。その思いは様々なアイデアと実行力と共に、世に新たな商品を生み出し続け形となっています。たとえば、TWO CROWSの「 4WAYSメンズエプロン」は、男性介護者をターゲットに、介護そのものより家事が負担になっているという課題を解決するために生み出されました。男性介護の問題を身近に感じていた寄玉さんは、「定年後の中高年男性に対して『思わず誰かに見せたくなるかっこいいエプロン』を家族からギフトとして贈り、家庭内での役割と家事を習得する機会を生むことで、将来の男性介護者の問題を解消するきっかけとしたい」との狙いでこの「オトコのエプロン」をつくったといいます。
「『介護は自分には関係が無い』と思う人が多いのは事実。社会課題の解決を前面に出しても、それは課題意識を持っている人にしか届かない。だからこそ、あくまでメッセージはポジティブに打ち出すようにしました」。
現在寄玉さんが手掛けている、蒻芋由来の植物性ペースト「NinjaPaste」を用いた「NinjaFoods」も、そうした考えからメッセージを工夫したと話します。
「『NinjaPaste』は食材に同化・結着し、食材に〝なりきる〟ことで食そのものを内側から変えることができるゼロ糖質、超低カロリーな同化性食物繊維ペーストです。それを用いて作ったtoCブランドが『NinjaFoods』で、現在はお好み焼き『OKONOMI』とソーセージ『SAUSAGE』、『真夜中のごちそうハンバーグ』の三品を開発しています。ターゲットにしているのは、これまで食べられるものが限られてきた糖尿病患者や、血糖値が高めの『予備軍』とされる人たち。ただ、メッセージではそこに訴求しても狭すぎるので、ゼロ糖質、低カロリーを前面に出してダイエットや健康食に興味のある層にも手に取ってもらえるように広げています」。
習慣を変え、社会を変える商品をつくる。
一見遠い位置にある社会課題をぐっと身近に引き寄せ、当人が意識せずとも解決していけるような商品を社会に生んできた株式会社シデカス。寄玉さんは「商品に親しみを持って使う人が増えれば、自然と社会課題が解決するように持っていく」ことを目指していると話します。
「今うちの父親は4WAYSメンズエプロンをつけてキッチンに立ち、料理をしています。社会課題について声高に語ったところでほとんど伝わらないですし、ポジティブに商品を使うことで意識せずとも自然と課題が解決していければ、それがいいんじゃないですか」。
ロマンと算盤の両輪で生み出された、世の中をより良く、より明るくしていく商品の数々。今後寄玉さんが株式会社シデカスで何をつくり、何を変えていくのか。次の新しい商品が生まれてくるのその時が、とても楽しみです。
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